ぶらっくまんた

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『灰色の庭』


幻想郷は発展を続け、やがて外の世界をも超える科学技術を持つようになった。
まるで今までの遅れを取り戻すように幻想郷はその姿を大いに変えていった。
あれだけいた妖怪たちはもはやどこにいるとも知れない。
幻想郷の巫女も賢者ももはや人たちには必要とされない。
コンクリートのビルがところ狭しと立ち並ぶ街並み。
そしてその隙間にうずくまる様に、小さな掘っ立て小屋があった。


「ごめんね、穣子ちゃん。こんなのしかなくて」
「そんなこと……ないよ。お姉ちゃん。私こそ、何もできなくて……」


静葉の手にあるのは芋の切れ端がわずかに浮いたスープ。
だがそのスープさえ、見の切れるような小屋の中ではあっという間に冷めてしまう。
布団に横たわる穣子にそれを飲ませながら、静葉は自分の無力さに唇を噛んだ。


「私たちはいったいどこで間違えたの……?」


科学技術の発展はとどまるところ知らず、自然に頼らずとも食料が作り出せるようになってしまった。
その結果は隙間風の吹き込むオンボロ小屋が物語っている。
日々の食料などいくらでも機械が生み出してくれる。
それは傲慢と無関心に結びつき、豊穣神への信仰は地に落ちた。
信仰の失われた穣子は存在自体を失い始め、今では寝たきりで動くことすらままならない状態だ。
豊穣神である穣子の身体は今では高価な天然食材しか受け付けない。
穣子が辛うじてその命を保っていられるのは、ひとえに静葉の看病あってのことだ。


「じゃあ、お姉ちゃんお仕事に行くから。ごめんね。ほんの少しだけ待っててね」
「うん……行ってらっしゃい。気をつけてね」
「今日は豪華なご飯食べようね。じゃあ、行ってきます」


穣子の枕元に水差しを置き、静葉は小屋から出た。
狭い路地を抜けて大通りに出れば、楓の樹の列が静葉を迎える。
その樹にあるのは異様に赤い紅葉。
薬物と遺伝子組み換えによって生み出された紅葉にはかつてのような素朴な美しさは無い。
しかしながら、その紅葉こそが静葉の存在を繋ぎとめている。


「寒い……」


手足を擦り合わせながら、静葉は裏路地に立った。
車のヘッドライト。看板のネオン光。三色の信号。
輝かしい光の溢れる大通りを眺めながらじっと静葉は待ち続ける。


「……ごめんね。嘘つきなお姉ちゃんでごめんね」


身分証明が命と同価値に扱われるこの時代。住民登録もない神様に就ける職業などない。
その上、売れる物も役に立つ職能も持たない静葉ができる金稼ぎなど数が知れていた。
自らの身体を売るしかない。
ふと前を通り過ぎる中年の男性。
それなりに仕立ての良いスーツを着ていながらも、その顔に刻み込まれたシワと猫背になった腰には強烈なストレスの中で生きていると感じさせるものがあった。
静葉は駆け足で男に近づき、その腕を引く。


「ん?」


怪訝そうにメガネを直す男。
その手に静葉は脱ぎ立てのパンツを握らせた。
突然のぬくもりに男も面食らい、静葉の顔を見る。


「あ……っ」


躊躇いは一瞬だった。


「あの……! もしよろしければ、私のうんちを買ってくれませんか!?」




◆◆◆




「……そうだ。そのまま後ろを向いて、足は広げて」


人目の付かない裏路地。生ゴミの悪臭とこびり付いた油汚れの広がる壁。
そこに静葉は立たされていた。
紅葉柄にカットしたスカートをめくり上げ、その小振りなお尻を男の前に晒している。
脂ぎった指が太ももや臀部を擦る。
そのたびに上がりそうになる悲鳴を必死に押し殺しながら、静葉は男の欲が満たされるのをひたすら待つ。


「静葉ちゃんだったかな。綺麗なお尻しているね」
「……ありがとうございます」
「それに気立てもいいし、性格も可愛いし。こんな娘が目の前でうんちしてくれるなんて光栄だよ」
「……………」
「よーし。じゃあ、このままうんちしてもらおうかな」
「こ、このままですか?」


まさかスカートをつまんだ姿勢のまま排便を求められるとは思ってもみず、静葉は震える声で聞き返してしまった。
どうやらこの男性は特殊な性癖を持っているようだ。
見ず知らずの少女のうんちを欲しがるだけでは飽き足らず、ここぞとばかりに変態的な排泄も求めてきた。


「ん? できないのかね? じゃあ、代金は支払えないね」
「う……っ」


ぱしぱしと男性は静葉の尻をお札で叩く。
その枚数は四。今までの中でも最高の額だ。
それだけあれば天然食材を買ってもお釣りが来る。


「わ、わかりました。この格好で……すればいいんですね」


瞬間、静葉の臀部に鋭い痛みが走った。
遅れて聞こえた甲高い音に、ようやく静葉は尻を叩かれたのだと理解する。


「ダメだよ。ちゃんと言わないと。こういうこと慣れてるんだろ?」
「…………っ」


慣れてなんかいない、そう言いたかったがすぐに口をつむぐ。
ひらひらと宙を泳ぐお札。
振り向き男を見る。
目を見つめて言えば男は金払いが良くなる。幾度かの恥辱から得た貴重な経験だった。


「……静葉のうんち、見ててください」
「んー、うんちよりうんこの方がいいね。下品な感じがして」
「静葉のう、うんこ。見ててください」
「もっと言って」
「静葉のう、うんこ。うんこ。うんこうんこうんこ……っ!」
「ぷっ! はっはっはっ!! 年頃の女の子がうんこうんこって恥じらいってものはないのか!?」
「~~~~っ!!」
「ほら! お前のうんこはどんなうんこだ!? 言ってみろ! 俺に売りつけるためにその細い腰に何日溜めた!?」


思わず潤みかけた涙腺をぎりぎりのところで押し込めた。
たかだか四枚の紙切れのために何故こんな目にあわなければならないのか。
夜の路地で、お尻を丸出しにして、あまつさえ見ず知らずの男の前でうんこをひり出すなんて正気か。
そんな疑念が頭を過ぎる。


「う……っ!」


逃げ出したい衝動に足が震える。
だがそれを押し止める心の声がある。
床に伏せた妹のために、姉として、血を分けた半身として、恥じも外聞も捨てなければないないのだ。


「わ、私のうんこはとっても臭い悪臭うんこです……! 貴方に買ってもらうために、もう四日もお腹の中に溜め込みました……! お腹の中で腐った激臭うんこです……!! 生ゴミよりもネコのうんこよりも臭い臭い極太うんこです!!」
「見ず知らずの男の前でうんこするときはどんな気持ちだ!?」
「と、とっても恥ずかしくて、でも、とっても気持ちいいです! うんこするときお尻がゴリゴリされてそれだけで気持ちよくなれるんです!」
「男を連れ込んでうんこ買わせるなんてとんだ変態だな!? この変態のメスブタが!!」
「変態です! 静葉は変態メスブタです!! 人前でうんこして気持ちよくなる変態なんです! お願いします! 静葉のうんこ見てください! ぶっというんこするとこ見ててください!!」


ぐっ、と静葉は立ったまま腹に力を入れた。
正直、直立の体勢は排便には向かないが、すでに限界まで溜められたうんこは肛門のすぐそばまで来ていた。


ぶぅぅぅぅっ! ぶっ! ぶぷぅ―――――っ!!


「あ……やぁ!!」
「はははっ! こいつ、屁までこきやがった! しかもなんだぁ、臭くて堪らんな! 涙が出てくるぞ!」
「う……うぅ……っ!」


奥歯を噛み締めながら、静葉は全身を包むような恥辱の熱さに耐える。
必死に息む間に呼吸は荒くなり、あたかも排便に欲情しているかのような姿となる。


「うーんっ! うーっ! ふぅーぅ!!」
「ほら出せ! 出せ! ちゃんと一本グソにするんだぞ! もし切れたら金は払わん!!」
「ぐぅ……!」


突然の理不尽な要求。だがすでに肛門を押し広げ始めた大便の痛みに文句も言えない。
何も考えない、何も感じない。念仏のように頭の中で唱えながら静葉は一度深呼吸して一気に腹に力を入れる。


「ふぅ――――! んぐぅ―――――っ!!」


ブッッ!! ムリッ! ムリリッ……! ミチミチミチ……ッッッ!!


静葉の宣言通り、彼女の腕ほどもある大便が顔を覗かせた。
岩肌のようなゴツゴツとした茶色の体。
それが大蛇のように静葉の肛門から伸びていく。


「はっ! くっ! ぐぅぅ!!」


ぷっ! ぷしゃああああああっ!! じょろろろろろろろろろ…………っ!!


大便をするに伴って尿道も緩んだのか、黄色の飛沫が股から走り、灰色の壁に滴っていく。
そのうち三割ほどはそのまま静葉のお尻と太ももを伝い、白い靴下まで届いてしまう。


「ほらほら、オシッコに気をとられているとうんこが切れちゃうよ」
「うっぐぅ!! んんっ! ふぅんんんんん…………ッッッ!!」


にちゅにちゅにちゅ……っ!! ぶっ!! ぶりりりりりりりりりっっっっ!!


極太の固形便は切れることなくずるずると伸びていく。
臀部を通り過ぎ、太ももを横切り、膝まで届いてもまだ切れない。



「っ……あ!!」
ぶっ!! みちゅっ!! ぼと…………っ!!

だがわずかに気を抜いた瞬間、静葉の肛門が力尽きたようにふわっと閉まってしまった。
自重を支えられる限界でもあったのだろう、一本グソはアナルに断ち切られ、重々しい音を残して地面に落ちてしまった。
静葉のお尻では残った繊維の切れ端が名残惜しそうに揺れている。


「あーあ。切れちゃったー。一本グソにしろって言ったのに」
「ご、ごめんなさい!! ごめんさない! ごめんなさい!」


半分残った大便を尻尾のように振りながら静葉は謝罪の言葉を吐き出し続ける。
それ以外にどうすることもできなかった。


「……まあいいか。なかなか迫力あるものを見せてもらったしな」
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「じゃ、これにうんこ詰めて。もちろん形を崩さないように」


ぽい、と投げられた透明なタッパー。
静葉がゴミ捨て場から拾ってきたものだ。
言われるまま、静葉は自らが出した汚物を持ち上げタッパーの中へ入れる。
それは奇しくも静葉の宣言通り、鼻が曲がりそうなほど臭かった。


「ど、どうぞ」
「おうおう」


大便の詰まったタッパーをカバンに詰めて、男は愉悦に頬を釣り上げた。


「じゃあ、約束のもんだ」
「…………っ!」


くしゃ……。


肛門にささくれたような痛みが走る。
尻にべっとりと何かが張り付くのを感じ、静葉はぶるりと身を震わせた。


「じゃあね静葉ちゃん。あ、実は静葉ちゃんの顔もウンコしているとこも写真に撮ってるから。また来週もよろしくね」
「……………」


カメラ付き携帯を軽く振ってから男は路地を出て行った。
その姿は光の雑踏の中へと紛れ、まったく見分けがつかなくなったしまった。


「う……うあ……っ」


ぬちょ……っ。


尻に張り付けられたお札を剥ぎ取る。
茶色に染められたお札を必死に擦り、汚物を払う。


「穣子……穣子……っ! 悔しいよぉ……! 苦しいよぉ……! っ! あ……あぁあ……あああああああああああっ!!」


よれよれになった四枚のお札を手に、息を殺すような嗚咽が漏れた。
素肌のお尻がコンクリートに冷たかった。



◆◆◆



「ただいまー。穣子今帰ったよ」
「おかえりなさい……姉さん」
「見て見て。今日はいっぱいお金入ったから豚さん買ってきたよ。寒いしお鍋にしよっか」
「うん……ありがと」


リズムかるに響く包丁の音。
ガスコンロの上で身を震わせるベコベコの鍋。
豆腐にネギに白菜、豚肉。
醤油をかけて、簡素な鍋ができあがった。


「美味しい……」
「よかった。さあどんどん食べてね。おかわりもあるからね」


コンクリートビルの中の小さな小屋の中で秋の姉妹神は鍋を食べる。
食べながら静葉は窓を見た。
曇り空にはちらちらと白い羽のようなものが舞い始めていた。
その中でも色あせない紅葉の赤。


「ああ……」


それを見て静葉は、自らの中で何かが崩れるのを感じた。





ここは灰色の庭。
人の作りし箱の中。


管理人:ウナル
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